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2024 .05.16
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下の記事と同じで、書いてたけど、まとまらなくなって放り出したやつやで!なんでやめてもうたんや!俺が続きがきになるわ!
ほの暗い穴の底から 5

 王にせかされ、妻の話をすることになった。
 

 妻と初めて出会ったのは、夏のそりゃもう暑い日で、釣り堀の掃除をしている時の事だった。

 妻は白い服を着ていた。陽炎の立つ道を複数の人と並んで歩いてくる。不思議と彼女だけ目立って見えた。天使のようだ、と思った。その時は距離からして、顔なんか見えていなかったのだが、頭にひらめいたのは天使だった。



 俺がぼーっとしているのを、親父が店の中から見ていてすっ飛んできた。

「いつまで掃除してるんだ、ご予約の貴族様がご到着なされたぞ!」

 親父に耳をつねられながら室内にひきずりこまれた。



 カントカと言う名の貴族がご到着されるや、親父は俺の持ち手を耳から頭に変えて、深々頭を下げさせた。親父は素っ頓狂な声で「ようこそいらっしゃいまへえぇ!」と噛んだ。俺たち親子は大事な所で噛む癖が共通している。そして話がうまくない所も。挨拶をしてくる貴族様に、会話のレパートリーが尽きてしまった親父はただただ平伏している。へえ、だの、へへえ、だの、返事のバリエーションも少ない。つまらなくなったかして貴族様は早々に俺たちに頭を上げる許可を出した。

 

 そうして妻と目が合った。

 妻はその貴族様の娘だった。外出したさに釣りについてきたらしい。

 親父が全力で頭をぶんなぐってくるまで、俺は物も言わずに口を開いたまま突っ立っていた。黒目がちな妻の目が、俺たちのやり取りを見てやわらかくなった。笑っている。俺を見て笑っている。そう思うとそれだけで、体の全部に火がついたみたいに熱くなって、急に息苦しくなってきた。あれ、どうやって息を吸ってたかな。そんなことすらわからなくなって目の周りがチカチカしてくる。

 俺一人ひそかにめっちゃくちゃな思いをしている間に、貴族様らは釣り堀へ行って、釣りをたしなみだしていた。親父は俺を蹴っ飛ばし、「帰れ!」と言ったが、断固として帰らなかった。普段なら嬉々として従う所だが、帰るわけにはいかなかった。

 餌を追加しに表へ出た時、また妻と目が合った。光の中で、今度ははっきりと笑っている妻。

 あの時の妻の美しさは筆舌尽くしがたい。今でも夢に見るほどに。特に印象に残ったのは形のいい額の真中に、つんと乗っていた黒子だ。あんな位置に黒子があるなんて、なんて神々しいんだ、と俺は思った。まるで、そう、あれは……



 俺はその日の日記に「天使な大仏と出会った」と、書いた。ポエムのつもりで。





「そんで、その天使な大仏は」と、王様はここで笑いをこらえながら言った。

「紆余曲折を経て、お前を愛し、身分を捨てたというわけか」 

 王様の言うとおりだったので、俺は黙ってうなずいた。念のため言っておくが、王様に語ってる時はもっとかしこまった口調で言ったんだぞ。こんな砕けた口調じゃなしに。

「身分違いの恋ねえ。お前、顔の割になかなかドラマチックだな」

「すみません」

「まー俺も庶民出だから、お前の嫁の苦労は想像がつく」

 

 妻の苦労については、俺はきっと本当には理解できていないと思う。あまり無駄口を叩く女ではなかったし、いつも静かにひっそりしていた。結婚できた事に有頂天だった当時の俺には、人の心を慮るなんて上等過ぎて出来なかったのだ。

きっとそのせいで、俺たちは仮面をかぶるようになってしまった。

王様が鼻くそをほじり出した。何か考えているらしい。こうなると誰が何を話しかけても戻ってこられないし、もし邪魔をしようものなら即死刑の可能性もあるので、俺は道具を片付け、王様のお世話をするようになってから身につけた、「風に揺れるカーテンくらいの存在感」でもって部屋を出た。
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